並列数値計算
数値計算アルゴリズムの並列性を抽出し、分散メモリ・共有メモリ・アクセラレータ上で高性能に実行するためのアルゴリズムと実装を研究します。
Research Overview
並列数値計算から、自動チューニング、生成AI、Agentic HPCへ
片桐孝洋の研究は、並列数値計算と大規模固有値計算を出発点として、性能可搬性を実現するソフトウェア自動チューニングへ発展し、現在は生成AI・AIエージェントによるHPCコードの自動生成、最適化、検証、さらに研究プロセス自体の自律化へ展開しています。このページでは、旧来の研究テーマを保存しながら、現在までの研究の連続性を示します。
Original Research Themes
2000年代の本ページでは、以下の分野を主要な専門分野として掲げていました。現在の研究も、この4分野の延長線上にあります。
数値計算アルゴリズムの並列性を抽出し、分散メモリ・共有メモリ・アクセラレータ上で高性能に実行するためのアルゴリズムと実装を研究します。
密行列・疎行列の固有値/固有ベクトル計算、Householder変換、QR法、反復法、直交化、通信削減、精度保証などを対象としてきました。
並列固有値ソルバの研究 →スーパーコンピュータ、CPU、GPU、MPI、OpenMP、CUDA等を用い、計算・メモリ・通信を統合的に最適化する研究を行います。
高性能化に必要な人間の知識を体系化し、アルゴリズム・コード・パラメータの選択と調整を自動化するソフトウェア工学を提唱してきました。
自動チューニングソフトウェア工学 →Automatically Blocking-and-Communication adjustment Library。数値計算ライブラリに自動チューニング機能を組み込み、計算機環境に応じた性能最適化を目指した研究です。
ABC-LIB →大規模固有値問題に関するアルゴリズム、ソフトウェア、研究コミュニティとの接続を行ってきました。
関連サイト →Research Evolution
研究対象は変化してきましたが、一貫した問いは「計算機・問題・アルゴリズムに応じて、より高性能で信頼できる計算方法をどのように自動的に選び、構成するか」です。
大規模固有値問題を中心に、Householder変換、QR法、逆反復法、直交化等の並列化と通信削減を研究。数値アルゴリズムと計算機アーキテクチャの両方を見る研究スタイルの基盤となりました。
人間の性能最適化知識をソフトウェアへ組み込み、実行環境に応じて自動調整する研究へ展開。FIBER、ABCLibScript、ABCLib_DRSSED等を通じて性能可搬性を追究しました。
AT Software Architecture、AT Software Engineering、AT Computingを統合し、自動チューニングを単一技法ではなく工学体系として捉える考え方へ拡張しました。
CPU/GPU、多階層メモリ、超並列計算機に対象を広げ、アルゴリズム・精度・並列化方式・性能パラメータを統合的に選ぶ自動最適化へ展開しました。
LLM、RAG、ローカルLLM、自動チューニング、混合精度、数値検証等を統合し、アーキテクチャに適したHPCコードを生成する研究を本格化しました。
ACRUを中心に、複数AIエージェントが要求分析、コード生成、コンパイル、実行、性能測定、解析、Auto-Tuning、デバッグ、知識蓄積までを反復する研究へ進んでいます。
Current Research
旧来の並列数値計算・自動チューニングを基盤に、生成AIとAIエージェントを「性能を考える計算機科学」へ組み込んでいます。
C、Fortran、OpenMP、MPI、CUDA等を対象に、LLMによるコード生成だけでなく、コンパイル・テスト・性能測定・修正までを閉ループ化します。
探索空間、性能モデル、ベイズ最適化等の従来ATと、LLMが生成する候補・戦略・コード変換を統合し、性能可搬性を高めます。
固有値問題、反復法、前処理、混合精度、数値的安定性など、単なる実行時間以外の数値的条件までAIが扱う研究を進めます。
アーキテクチャごとに最適化方針が異なるHPCコードについて、性能解析とコード変換をAIエージェントにより自律化します。
研究上の機密性、再現性、オンプレミス運用を考慮し、ローカルLLM、RAG、Memory、Knowledge GraphをHPC開発へ統合します。
仮説生成、実装、実験、性能評価、結果解釈、再実験までをAIエージェントが支援し、HPC研究そのものの自律化を目指します。
Auto-Tuning × AI Agents
AIエージェントは自動チューニングを置き換えるものではなく、その適用範囲を「パラメータ探索」から「問題理解・設計・コード生成・検証・知識獲得」へ拡張する技術として捉えています。
従来のATでは、人間が候補実装と探索空間を設計し、システムが測定・探索して最適値を選びます。Agentic HPCでは、AIエージェントが探索空間そのもの、実装候補、評価方法、次の実験計画まで生成します。
Learnの結果をAnalyzeへ戻し、設計・実装・評価を自律的に繰り返す閉ループを構成します。
Recent Research Connections
2025年以降の研究では、「LLMはHPCコードを生成できるか」から「実機性能で学習できるか」「複数エージェントが自律最適化できるか」「研究そのものを自律化できるか」へ問いを進めています。
Research Agenda
自動チューニングの研究資産をAIエージェントへ接続すると、次のような新しいHPC研究領域が生まれます。
AIが性能ボトルネックを分析し、最適化候補と探索空間を動的生成する。
入力行列・精度要求・計算機構成に応じ、アルゴリズム・前処理・精度・実装を自律選択する。
CPU、GPU、HBM、NUMA、通信ネットワーク等を理解し、コードと実行方式を共同設計する。
実機測定を報酬・教師信号として利用し、LLMの最適化能力そのものを改善する。
性能履歴、コンパイラ、アーキテクチャ、失敗例、最適化知識を構造化し、Agentが再利用する。
正当性、性能、自律性、再現性、コストを統合してHPCエージェントを評価する。
仮説生成から実験、解析、図表、論文作成までを支援する研究エージェントを構築する。
既知の最適化手法の適用だけでなく、新しい数値アルゴリズムや分解・通信削減法を探索する。
Original Page Archive
2006年版に掲載していた情報を、研究史資料として残します。旧ページのメッセージや座右の銘もここに保存しています。
旧ページの中心メッセージ:「新技術である〈ソフトウエア自動チューニング〉に関する科学技術を真摯に追求し、永続的に進歩し続けることで、諸外国にさきがける日本発の革新的技術の創成を狙う」
並列数値計算、大規模固有値計算、高性能計算、自動チューニングソフトウエア工学。
人知は積分計算に無尽蔵の活動舞台を見い出すことができる --- コント
「人知は固有値計算に無尽蔵の活動舞台を見い出すことができる」
「進歩の無いものは決して勝たない。負けて目覚めるのが最上の道だ。日本は進歩ということを軽んじ過ぎた。私的な潔癖や徳義にこだわって、真の進歩を忘れていた。敗れて目覚める。それ以外にどうして日本は救われるか。今日目覚めずしていつ救われるか。俺たちはその先導になるのだ。日本の新生にさきがけて散る、まさに本望じゃないか。」--- 臼淵磐大尉、死二方用意、映画「男たちの大和 YAMATO」
科学技術の進歩についても、常にこの精神を忘れてはならない。新技術を真摯に追求し、永続的に進歩し続けることで革新的技術の創成を狙う、という研究観を旧ページに記していました。
「もし論文を書かないで大きな顔をしているのならば、どうして書けないのか、どういうところで引っかかっているのか、明確にいえるようにしておく必要があります。絵を描けない画家はいません。歌を歌えない声楽家もいません。「研究者です」という以上は、やはり論文を書かないとだめです。あるいは特許がとれていないとだめです。そのうえで数が多い、少ないとか、質がよい、悪いとかいう評価を受けるべきです。いちばん悪いのは、論文をまったく書かないで「研究者です」といばっている人。これはだめです。たまに書く人でも、つまらない論文を書いている場合が少なくないのです。これもだめです。何も書かないよりも、あるいはつまらない論文を五年に一回、一〇年に一回書くよりも、やさしい問題でいいですから一つひとつ取り組んでいるほうがいいのです。
ただし、論文を書かなくても評価される研究者がいます。こういう研究者は見ているとわかります。目利きであるというか、批評眼の鋭い人。そういう人は論文をほとんど書かなくても、一〇年に一本でも私は何にも文句はいわない。なぜかというと、熱心にいろいろ話をしていると鋭い批評をしてくれるからです。
その人々はものすごい知識の蓄積をしているからこそ、即座に批評できるわけです。だから私は論文を書かないからといって評価しないわけではありません。そうはいっても何も書かないで、批評もできないし、なぜ自分が論文を書かないかということも明確にいえない、コーヒーばかり飲んでいる、お酒ばかり飲んでいる、そういう研究者まがいを軽蔑します。じつをいうと、そういう人が少なくないのです。そんな人がよく発言することがある。大学批判とか、大学評価に対する批判とか。そういう人をよく見ると論文がほとんどなかったりする。社会に対して何か文句をいう以上、自分がきちっとした研究をしたうえでやるべきです。なぜ自分が論文を書いていないか、自己評価したうえで批判や発言をすべきです」 — 『研究者』有馬朗人監修、東京図書、2000年、19–21頁
「諸事批判の前に、定期的に論文を書き、きちっとした研究を継続すべし」
Current References